猫の感染性腹膜炎(FIP)に関する欧州のガイドライン⑩ Feline Infectious Peritonitis: European Advisory Board on Cat Diseases Guidelines
血液サンプルを用いたFCoV RT-PCR
血液由来のサンプル(全血、血清、血漿、末梢血単核細胞(PBMC)など)で、RT-PCR法を用いてFCoV RNAを検出することが可能である。
FIPの猫と健康な猫の血漿または血清サンプルを用いてFCoV RT-PCRを実施したところ、FIP症例のわずか0~15%がFCoV RNA陽性であり、健康な猫ではFCoV RT-PCRは全て陰性であった。FIPが確定または強く疑われる15/18頭(83%)で、全血サンプルのFCoV RNAのRT-PCRが陽性であった。滲出型FIPの猫の全血をRT-PCRで検査した研究では、114/125頭(91%)が陽性であったのに対し、非滲出型、または混合FIPに罹患した猫を対象とした同様の研究では、138/156(89%)と124/153(81%)が陽性であった。
血液サンプルでのFCoV RT-PCRの特異度は、健康な猫や他の病気の猫でも、まれではあるが、血液中にFCoV RNAが検出される可能性がある。米国の保護施設で飼育されていた健康な猫9/205頭(4%) の血液でFCoV RNA RT-PCR陽性であった。追跡調査した7/9頭では、その後6ヶ月間に全頭ともFIPを発症しなかった。別の研究では、健康な猫では23/424頭 (5.4%) が陽性であったのに対し、FIPの臨床症状がある猫からのサンプル301/651頭 (46.2%) が陽性であった。
貯留液におけるFCoV RT-PCR
FIPが確定または疑われる猫の腹水サンプルのほとんど(72~100%)でFCoV RNAが増幅し、FIPではない猫の腹水では、FCoV RNAは増幅されなかった。FIPに罹患していない対照群の猫1/29頭の腹水で、低レベルではあるもののFCoV RNAが増幅されたり、FIPに罹患していない体液を検査したコントロール猫3/24頭でFCoV RNAを増幅した。腹水があるこれらの3頭はリンパ腫および悪性円形細胞腫瘍、または慢性腎臓病であった。腸腫瘍の猫1/6頭の貯留液からFCoV RNAが検出されたり、FIPではない猫から採取した3/16頭でRT-PCRが陽性となり、特異度が81%であると報告された。しかし、これら3頭がFIPでないことは、貯留液のIF免疫染色が陰性であったことに基づいており、実際にFIPであった可能性ある。
FIPを示唆する症例の貯留液中にFCoV RNAが存在する場合、FIPの可能性が非常に高い診断となり、試験的治療を開始するのに十分な情報となる。