Prognostic value of serum cystatin C concentration in dogs with myxomatous mitral valve disease.

血清シスタチン C 濃度が僧帽弁の粘液腫性変性の犬の予後に及ぼす影響

Naoki Iwasa et al, J Vet Int Med, 2023

INTRODUCTION:僧帽弁閉鎖不全は小型犬で最も一般的な心臓病であり、肺水腫、失神、呼吸困難により死に至る場合がある。腎機能は僧帽弁閉鎖不全の重要な予後因子の 1 つで、血清 Cre 濃度が高い犬の生存期間は、Creが低い犬よりも短いとされているが、Creは糸球体濾過率が 75% 低下するまで増加ししないとされている。そこで、腎臓以外の要因に依存しない、腎機能障害を検出できるマーカーが必要とされている。血清シスタチンCは、犬の糸球体濾過率のバイオマーカーとして確立されている一方で、ヒトでは、血清シスタチン Cは腎不全患者だけでなく心不全患者の予後とも関連している。 そこで、本研究では、血清シスタチンC濃度が僧帽弁閉鎖不全の犬におけるの予後に関連するか調査した。

MATERIALS AND METHODS:後ろ向きの横断研究で、2015年2月から2021年4月までに僧帽弁閉鎖不全と診断された犬のカルテを用いた。体重15 kg以上の犬は除外され、プレドニゾロンを投与された犬、データが欠落している症例も除外された。 死因、生存期間、薬歴、臨床症状、体重、年齢、性別、品種、血清Cys-C濃度、血中尿素窒素(BUN)濃度、血中Cr濃度、尿比重(USG)、 尿素タンパク質/Cr比(UPC)、血漿心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)濃度、椎骨心スコア(VHS)、椎骨左心房サイズ(VLAS)、左心房対大動脈比(LA/AO)、および左心室端 -拡張期内径 (LVIDDN) を医療記録から抽出した。 ステージはB1、B2、C、またはDに分類された。

RESULTS:除外基準を満たした50 頭の犬が研究に参加し、雄 9 頭、去勢雄 19 頭、雌 4 頭、避妊雌 18 頭。 犬種にはチワワ20頭、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル9頭、ミニチュア・シュナウザー7頭、ポメラニアン5頭、雑種4頭、シェットランド・シープドッグ1頭、シーズー1頭、ヨークシャー・テリア1頭、パピヨン1頭、ビーグル1頭であった。 ACVIMガイドラインのステージ分類では、ステージ B1が15 頭、B2が11 頭、Cが16 頭、Dが8 頭であった。血清 Cys-C 濃度は、各ステージ間で有意差はなく、ステージB1とB2で無症状な症例は無治療で、テージ B2 と診断されたすべての犬にピモベンダンが投与され、ステージCの16頭の犬には臨床症状があり(咳(10/16)、運動不耐症(10/16)、呼吸困難(4/16)、または肺水腫を伴う頻呼吸(2/16))フロセミド (8/16)、アンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害剤 (2/16)、スピロノラクトン (1/16)、またはピモベンダン (10/16) で治療されていた。ステージ D の 8 頭の犬には、咳 (6/8)、運動不耐症 (4/8)、呼吸困難 (2/8)、または肺水腫を伴う頻呼吸/呼吸困難 (2/8) が見られ、フロセミド (8/8)、ピモベンダン (8/8)、スピロノラクトン (7/8)、シルデナフィル (3/8)、または ACE 阻害剤 (1/8) で治療されていた。

追跡期間の中央値は 358 日 (範囲、6 ~ 1901 日) で、50頭中21頭の犬が僧帽弁閉鎖不全が原因で死亡し(n = 21)、ステージごとにはB1は5/15頭、B2は2/11頭、Cは7/16頭、Dは7/8頭であった。しかし、50 頭の犬のうち 8 頭は、他の原因で死亡した。
単変量 Cox ハザード回帰分析により、血清 Cys-C、BUN、ANP、LVIDDN (P < 0.01)、血中 Cr、ステージ D (P < 0.05) がすべて死亡と有意に関連していた。

高 Cys-C 群 (>0.4 mg/L) および低 Cys-C 群 (≦0.4 mg/L) で解析したところ、高 Cys-C グループは、低 Cys-C グループよりも生存期間が有意に短かった。

血中Cr濃度が正常(≤1.4 mg/dL)の46頭の解析では、10頭の犬が高Cys-C(>0.4mg/L)、36頭の犬が低Cys-C(<0.4 mg/L)に分類され、 高Cys-C群の6/10頭、低Cys-C群の12/36頭が僧帽弁閉鎖不全が原因で死亡し、血中Cr濃度が正常な犬であっても、高Cys-C群は低Cys-C群よりも生存期間が有意に短かった。

DISCUSSION:高 Cys-C グループは低 Cys-C グループよりも生存期間が短く、負の予後因子であることが明らかとなった。血中Cr濃度が正常な場合や、ステージに関わらず、予後を評価するために Cys-C を測定することは有用である可能性がある。

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