猫の感染性腹膜炎(FIP)に関する欧州のガイドライン Feline Infectious Peritonitis: European Advisory Board on Cat Diseases Guidelines
Abstract:猫コロナウイルス(FCoV)は、全世界的に存在するRNAウイルスで、経口感染する。欧州猫疾病諮問委員会(ABCD)の作成した猫伝染性腹膜炎(FIP)に関するガイドラインである。FCoVは腸管に感染し、ほとんどは臨床症状が現れないが、一部の感染猫がFIPを発症する。FIPの病態は血管周囲静脈炎で、2歳未満の猫が最も多く罹患し、発熱、食欲不振、体重減少を呈し、多くは腹水が貯留し、眼症状や神経症状を呈する場合もある。診断は滲出液がある場合は、FCoV抗原の検出が非常に有用である。滲出液がない場合は複雑だが、肉芽腫などから細針吸引細胞診を行い、細胞診およびFCoV RNAまたはFCoV抗原の検出を行う。かつては致死的であったが、抗ウイルス薬によって回復が可能となっている。
Introduction:コロナウイルスのゲノムは、RNAポリメラーゼのエラー率が高いため、遺伝子の変異率が高い。FCoVは腸管上皮細胞から単球への細胞親和性が切り替わり、高病原性FIPになると考えられている。
FIPは、純血種と2歳未満の猫に多く発症し、主症状は発熱、食欲不振、体重減少とともに、体液貯留を呈し、腹部リンパ節腫脹、ぶどう膜炎や神経症状も出現する。
要約と同一内容なので割愛する。
ウイルスの分類
ネココロナウイルスは、ニドウイルス目、コロナウイルス科、アルファコロナウイルス属に分類される。大型でエンベロープをもち、イヌコロナウイルスも含まれる。ベータコロナウイルス属に属する新しい重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)はFCoVとは大きく異なるウイルスである。
FCoVはエンベロープウイルスであるため、ほとんどの消毒剤、蒸気、60℃での洗浄によって容易に不活化される。環境条件によっては、数日から数週間感染力を維持することが可能である。
FCoVは、増殖能力、ゲノム特性、および抗原性に基づいて、タイプIとタイプIIに分類される。 I 型および II 型のどちらも、腸管コロナとFIPとなる可能性があり、I 型 が80~95%と報告されている。
病型とゲノム変異
FCoVは2つの病型に分類され、1つは腸管上皮細胞で増殖する猫腸管コロナウイルス(FECV)、もう1つは単球またはマクロファージで増殖し、致死的な猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)である。それぞれの病型にはI型とII型の両方が存在する。しかし、全身複製できるのはFIPVだけではありません。FECVも健康な猫において全身増殖することが示されている。それらを必要に応じて低毒性FCoVとFIP関連FCoVとして区別し、生物学的挙動の違いを明確にしている。
コロナウィルスは、RNAポリメラーゼの転写エラー率が高く、変異しやすいため、突然変異、欠失、終止コドンの導入、組み換えなど、さまざまな種類の変異を引き起こす。
広く受け入れられている仮説は、FCoVに感染してFIPを発症した猫において、腸管上皮細胞から全身性単球/マクロファージへの遺伝的変異によって標的細胞の切り替えを促進するというものである。低毒性 FCoV が FIP 関連 FCoV に内部突然変異することにより発生する。この「内部突然変異」理論は、FIP 関連 FCoV と、同じ環境で生活している FIP に感染していない猫の糞便サンプルの FCoV との間に密接な遺伝的関係があることを示す研究によって裏付けられている。また、他の環境の猫から採取された FCoV との遺伝的関係よりもはるかに一致率が高いことからも裏付けられる。
FCoVのFIPVへの転換に関与する遺伝子解析研究が進められており、スパイク遺伝子やアクセサリ遺伝子3c、7bなど、様々な遺伝子の変異が関与していると推測されているが、詳細は未だ不明である。