猫の感染性腹膜炎(FIP)に関する欧州のガイドライン② Feline Infectious Peritonitis: European Advisory Board on Cat Diseases Guidelines
疫学
伝播
FCoVの感染経路は糞便の経口感染で、ウィルスで汚染されたもの(例:トイレ、猫砂の媒介物やスコップ、ブラシ、掃除機、靴)との接触、およびトイレ使用時に汚染された足をグルーミングすることで伝播する。
唾液中にウイルスが検出されることは稀であるため、濃厚接触や給餌ボウルの共有は感染経路とはならない。
極めてまれであるが、妊娠中にFIPを発症した雌猫から胎盤経由の感染が報告されている。
輸血によるFCoVの感染は報告されていない。
自然感染後、早ければ2日で糞便中にウイルスを排出し始め、数日、数週間、数ヶ月、持続感染例においては生涯にわたって排出し続ける。ウイルスの排出は通常数週間から数ヶ月続き、その後停止するか、断続的に発生する。また、免疫の持続期間が短いため、再感染することもあり、多頭飼育の対象研究では、19%の猫が断続的にウイルスを排出する猫に分類された。飼い猫を対象とした別の研究では、31%が断続的にウイルスを排出するか、回復した後に再感染したと判断された。
再感染
FCoV持続排出猫の定義は存在しないが、自然感染では約13%、実験感染では22%の猫が持続的にウイルスを排出する。採取した4つの糞便サンプルのうち少なくとも3つでFCoV RT-PCRが陽性を示した猫を持続排出猫とみなした研究では、56%が持続排出猫とみなされ、これらの猫の大部分(89%)は4つの糞便サンプルすべてで陽性を示した。このような猫は、家庭内でのFCoVの伝播に大きな役割を果たしていると考えられる。
糞便中への排泄量は、子猫で多く、FCoV抗体価が高いほど、FCoVを排出する頻度と量が増加する。FCoV排出猫を隔離しないと、家庭内でのFCoVの蔓延と持続を助長する可能性があり、これが多頭飼育環境における高い抗体保有率の原因となっている。
蔓延
FCoVおよびFIPは、密集した環境で多く発生し、単独で生活している野良猫では多く発生しない。英国のシェルターで60日以上過ごした猫は、シェルターに入所しなかった猫と比較して、抗体保有率が5倍高かった。
17,392匹の猫を対象とした日本の研究では、FCoV抗体保有率は純血種の猫で67%、非純血種の猫で31%であった。純血種の猫では、抗体保有率は幼少期に急速に上昇し、生後3ヶ月で約80%に達し、2歳頃までこの水準で推移した。その後、抗体保有率は徐々に低下し、14歳以上の猫では約30%に減少した。一方、非純血種の猫では、抗体保有率の変動は小さく、全年齢で約30%で推移した。