猫の感染性腹膜炎(FIP)に関する欧州のガイドライン⑥ Feline Infectious Peritonitis: European Advisory Board on Cat Diseases Guidelines
診断
過去にFCoVに感染したことがない限りFIPを発症ないため、罹患組織および滲出液中のFCoV(RNAまたは抗原)の検出と、FIPと一致する生化学検査の所見は有用である。
オンラインでも閲覧可能なABCD FIP診断アプローチツールは、FIPの診断を確定するために、またはFIPの診断が非常に高いと判断するために使用できる。現在では、FIPの治療に効果的で迅速な抗ウイルス薬が存在するため、確定診断は得られていなくても、FIPの可能性が非常に高い場合には試験的治療は正当化される。
兆候と病歴
FIPは2歳未満の若い猫に多く見られ、わずかにオス猫の方が発症リスクが高い。しかし、年齢や性別を問わず、どの猫も発症する可能性がある。ドライタイプの発症平均年齢は39ヶ月であった。FIPの猫のほとんどは、多頭飼育経歴がある。譲渡、多頭飼育、手術、他の疾患、ワクチン接種、移動、などのストレスが、FCoVに感染した猫のFIP発症に寄与している可能性がある。
診断へのアプローチ
FIPで体液貯留のある猫では、体液採取が最も診断に有用で、通常、透明で粘性があり、麦わら色である。外観上、血液、あるいは尿と判別できる場合は、FIPの可能性は低く、膿性滲出液は通常FIPによって引き起こされるものではないが、例外はある。乳びも通常は、心不全、リンパ腫、胸管破裂などの他の疾患を示唆するが、FIPの猫で純粋な乳び液のみを呈するケースも報告されている。
ドライタイプの診断は、検査に有用な腹水がなく、臨床症状が非特異性(例:食欲不振、無気力、体重減少、発熱)なので、困難となる。ドライタイプの症例では、生前に組織生検を採取し、組織病理学検査や免疫組織学的検査を行うことで確定診断を下すことは、組織へのアクセスの問題、病気の猫における全身麻酔や侵襲的な生検採取の禁忌、採取にかかる費用などの理由から、非常に困難である。神経学的または眼の徴候がみられる症例では、脳脊髄液または房水サンプルの採取によって診断に至るが、非侵襲的な確定診断検査はない。もし肉芽腫などからFNAサンプルが採取可能であれば、細胞診およびFCoV抗原またはRNA検出のために分析することで、診断可能である。
現在では、効果的な抗ウイルス薬を試験的に投与し、迅速で持続的な治癒反応も診断をサポートする手段となる。
血液検査
血液検査はFIPに特異的ではないが、リンパ球減少症、好中球増多・左方偏移、そして軽度から中等度の正球性正色素性貧血がよく認められる。FIPによる免疫介在性溶血性貧血は予後不良の兆候であり、治療が成功すると貧血も改善する。
血清生化学検査
A/G比が0.4未満の場合はFIPの可能性が非常に高く、A/G比が0.8を超える場合はFIPの可能性が非常に低い。 近年、FIPによる低A/G比の頻度と程度は減少しており、これはFIPが早期に診断されるためと考えられる。
ビリルビン値が上昇しているにも関わらず、溶血と肝酵素活性の中等度の上昇がない場合は、FIPの可能性がある。高ビリルビン血症はFIPの猫の22~84%に認められ、必ずしも肝酵素の上昇と相関しない。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスフェラーゼ(AST)、アルカリホスファターゼ(ALP)は、FIPの猫の86%、66%、95%で正常であった。高ビリルビン血症は、赤血球の脆弱性が過度に高まることで溶血が起こり、ヘモグロビン分解産物の除去が減少することから生じる。FIPによるビリルビン値の上昇および赤血球数の減少は予後不良因子である。ウェットタイプと混合タイプのFIPを抗ウィルス薬で治療し、生存した猫の総ビリルビン値は、生存しなかった猫よりも有意に低かったことから、総ビリルビン値増加は負のリスク因子である。
FIPでは肉芽腫性病変または糸球体腎炎によって腎臓が障害される可能性があり、ドライタイプでより一般的である。
低血糖はFIPに罹患した猫5/32頭(15%)で報告されており、これは重症度、炎症反応症候群、または敗血症の存在を反映している。
急性相タンパク質は、多くの炎症性疾患において、マクロファージおよび単球から放出されるサイトカインに反応して肝臓で産生される。猫における主要なAPPは、α1酸性糖タンパク質(AGP)と血清アミロイドA(SAA)である。 AGP血清濃度の基準範囲は0.48 mg/mL未満(480 µg/mL未満)であり、FIPでは中等度の血清AGP濃度の上昇、および1.5 mg/mLを超える濃度が報告されている。血清AGP濃度の上昇は、典型的ではない病歴および臨床所見のFIPにおいて、血清AGP濃度の3 mg/mLを超える顕著な上昇は、FIPの診断を裏付ける可能性がある
SAAはFIPに罹患した猫で増加しており、ウェットタイプでは、ドライタイプと比較して顕著である。ある診断研究ではAGPがSAAよりも有用であることが示された。