犬における総胆管カテーテル挿入および洗浄を伴わない胆嚢摘出術後の長期転帰
Long-Term Outcome after Cholecystectomy without Common Bile Duct Catheterization and Flushing in Dogs.
Matteo Rossanese et al. Animals. 2022 Aug 17;12(16):2112.
1. はじめに
犬の胆嚢粘液嚢腫(GBM)は、粘液の過剰分泌と高粘稠度胆汁の産生により発生し、その病因は多因子性であると考えられているものの、依然として不明である。GBMでは胆嚢摘出術が第一選択とされており、胆嚢管を結紮する前に総胆管(CBD)のカテーテル洗浄が行われるが、その必要性については、議論の余地がある。Pikeらは、術前T-Bil増加、総胆管拡張が認められた犬でも、総胆管のカテーテル洗浄を行わずに、良好な臨床成績が得られたと報告しており、これは胆嚢摘出後に胆道系内の残留粘液が排出されたことを示唆している。胆嚢摘出術中に総胆管洗浄を行わなかった場合の長期的なデータは限られおり、本研究では、総胆管の洗浄を行わずに、胆嚢摘出術を受けた犬の長期的な転帰を明らかにすることを目的とした。
2. 材料と方法
後ろ向きコホート観察研究で、2014年から2021年の間に胆嚢摘出術を受けた犬を用いた。組み入れ基準は、臨床記録の存在、詳細な手術記録、6ヶ月以上の追跡調査期間があることとした。
手術中に総胆管カテーテル洗浄(順行性・逆行性)が行われた犬は除外した。胆嚢または胆道の破裂が認められた犬も除外した。
年齢、体重、ボディコンディションスコア、品種、性別、臨床症状、血液検査結果、X線検査、CT検査、MRI検査、超音波検査、心エコー検査、来院から手術までの期間、病理組織学的所見、手術から退院までの期間、細菌学的検査結果、退院時の生存状況、術中および術後の合併症の発生、追加の外科的介入や内科的治療の必要性について調査した。
CBDは直径4 mm以上で拡張していると判断し、軽度拡張(5~6 mm)、中等度拡張(7~8 mm)、重度拡張(8 mm超)に分類した。
3. 結果
合計82頭の犬が組入基準を満たした。
品種はボーダー・テリア(32%)、ミニチュア・シュナウザー(8.5%)、雑種(8.5%)、コッカー・スパニエル(6%)、ビション・フリーゼ(6%)、ジャック・ラッセル・テリア(6%)、チワワ(5%)、ヨークシャー・テリア(3.6%)、ラブラドール・レトリバー(3.6%)、ビーグル(3.6%)、その他であった。
雄41頭(去勢済み32頭、未去勢9頭)、雌41頭(避妊済み38頭、未避妊3頭)であった。手術時の年齢中央値は108ヶ月(範囲:48~168ヶ月)、体重中央値は10 kg(範囲:3.7~31.8 kg)であった。ボディコンディションスコアの中央値は5/9(範囲:3/9~9/9)であった。
臨床症状の持続期間の中央値は7日(範囲:24時間未満から120日)、臨床症状は嘔吐(79%)、元気消失(56%)、食欲不振・食欲減退(39%)、下痢(22%)、黄疸(10%)、多尿・多飲(10%)、腹痛(7%)が認められた。
身体検査所見としては、腹痛(48%)、黄疸(10%)、発熱(5%)、精神状態の変化(2%)、脱水(5%)(2%)、腹部膨満(2%)が認められた。37頭(45%)では、身体検査において異常は認められなかった。
全血球計算では、白血球増多症が21頭(27%)、貧血が6頭(8%)に認められた。57頭(72%)では、CBCの結果は基準範囲内であった。血清生化学検査では、低タンパク血症および低アルブミン血症は、それぞれ6頭(7%)および10頭(12%)に認められた。ALPの上昇は68頭(83%)、ALTの上昇は51頭(62%)、高ビリルビン血症は30頭(37%)に認められた。12頭(15%)では、血清生化学検査値は正常範囲内であった。
副腎皮質機能亢進症が11頭(13%)、糖尿病が9頭(11%)、膵外分泌不全が1頭(1.2%)であった。
総胆管については、72頭(88%)で正常範囲内(4 mm未満)と判断され、8頭(10%)で軽度拡張(5~6 mm)、2頭(2.4%)で中等度拡張(7 mm超)が認められた。
その他の検査として、X線検査が29例(35%)、心エコー検査が4例(5%)、CT検査およびMRI検査がそれぞれ3例(4%)で実施された。
診断から手術までの期間の中央値は4日(範囲:1~180日)であった。
腹腔洗浄は43頭(52%)、術後の入院期間は1~6日(中央値:3日)であった。
病理組織検査で、全例に胆嚢粘液嚢腫が確認、粘液性嚢胞性過形成が22頭(27%)、リンパ球形質細胞性・好中球性胆嚢炎が18頭(22%)、慢性リンパ球形質細胞性胆嚢炎が11頭(13%)、壊死化膿性胆嚢炎が9頭(11%)、胆嚢腺腫が1頭(1%)で認められた。
好気性・嫌気性細菌培養および薬剤感受性試験では、16例(20%)で陽性となり、大腸菌(50%)、腸球菌属(30%)、ブドウ球菌属(5%)、プロテウス属 (5%)、Clostridium perfringens* (5%)であった。
入院期間中、16頭(20%)で合併症が発生し、嘔吐/逆流(65%)、膵炎(23%)、血液製剤の輸血を要する腹腔内出血(6%)、および尿路感染症(6%)であった。
持続的な出血で1頭が安楽死、1頭は心肺停止、1頭は急性腎障害により安楽死、3頭が入院中に死亡した。
総胆管のカテーテル洗浄を行わずに胆嚢摘出術を受けた82頭中79頭(96%)が退院まで生存した。
4. 考察
胆嚢摘出術で総胆管のカテーテル洗浄を行わなくても、周術期死亡率が低く、良好な長期予後を示した。
従来、胆嚢摘出術の死亡率は40%に達するとされてきたが、本研究における全体の周術期死亡率は4%であり、これは他の近年の研究結果と同等であった。このことは、早期に外科介入を行うという近年の傾向を反映している。
別の研究では、開腹胆嚢摘出術を行う際、開存性の確認のためにカテーテル挿入を行った群と、開存性を評価しなかった群との間で、生存率に有意な差は認められなかったと報告されている 。
Piegolsらは、カテーテル挿入が手術時間の延長や膵炎リスクの増大に関連していると報告した。
本研究において、CBDに関連する長期合併症として唯一確認されたのは、胆石により胆道閉塞した1頭の事例であった。





