犬の糞便細菌叢移植の論文の要約の3番目の論文です。英語のタイトルは”Fecal microbiota transplantation as a new treatment for canine inflammatory bowel disease.”で、犬の炎症性腸疾患における新しい治療法としての糞便微生物叢移植 について、Ayaka NIINA等が2021年にBioscience of Microbiota, Food and Healthに投稿・掲載されたものです。

目的:人の医療では糞便細菌叢移植が再発性クロストリジウム ディフィシル)感染症の有効な治療法であることが報告されており、 潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群などの炎症性腸疾患 などに対しても有効性が研究されている。獣医学において複数の胃腸疾患の治療法として試験されており、犬のIBDに対する長期糞便細菌叢移植の有効性と安全性を報告した。しかし1頭の症例報告だったため、犬の IBD に対するこの治療法の有効性を確立するために、IBD を患っている 9 頭の犬について検討した。

材料と方法:2016年から2019年にかけて日本獣医生命科学大学医療センターで、食物および抗生物質反応性腸症を除外し、病理組織検査でリンパ球性・形質細胞性腸炎と診断された犬9頭で実施した。薬剤(例えば、抗生物質、下痢止め化合物、整腸剤、コルチコステロイド、およびシクロスポリン)は、糞便細菌叢移植 の 1 週間前に中止した。
ドナー犬の選別:身体検査、全血球測定、血清生化学分析、X線撮影、腹部超音波検査、および糞便検査に異常が認められない5頭の犬を用いた。

糞便細菌叢移植の実際:ドナー犬から糞便を収集した直後、3 g/kg でリンゲル液に溶解した。 滅菌ガーゼで濾過し、 10 mL/kg の移植液を結腸浣腸で投与した。

結果:糞便細菌叢移植後 3 日で、すべての犬で臨床症状が改善した。 CIBDAIスコアは、移植後に有意に低下した。 副作用は観察されなかった。フソバクテリウムのリアルタイム PCR 検査では、移植後のフソバクテリウムの割合は有意に増加した 。3 頭のRNA シーケンスでは、 症例の細菌叢は移植によりドナーに類似した。

IBDの犬におけるフソバクテリウムの減少は、今後の病因解明に役立つのではないかと感じました。また、リミテーションとして、移植後の内視鏡検査を実施していないため、移植による腸粘膜の変化は不明とされています。最後の考察で、多くの症例で糞便細菌叢移植 は 2 ~ 3 週間に 1 回の頻度で繰り返す必要があると記載されており、単回の移植では治らないことが多いので、インフォームに気をつけたいと思います。移植の実際の方法が詳細に記載されていませんでしたが、同著者が他の論文で、3g/kgの便を9ml/kgのリンゲル液で溶解し、滅菌ガーゼで濾過して移植液を作成し、10ml/kgの移植液を結腸に注入した と記載しているのでおそらく同様の方法と思われます。

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