4本目の論文は、Koji Sugita等が2021年にThe journal of veterinary medical scienceに投稿・掲載されたもので、”Successful outcome after a single endoscopic fecal microbiota transplantation in a Shiba dog with non-responsive enteropathy during the treatment with chlorambucil”というタイトルで、日本語では「単回の内視鏡を用いた糞便微生物叢移植により良好な結果が得られた無反応性腸症の柴犬の1例」という内容です。

症例:柴犬 7歳6ヶ月齢 去勢雄 体重13.2kg
症状:1か月の無気力、食欲不振、嘔吐、および頻繁な水様性下痢を呈していた。
検査結果:体重減少、低アルブミン血症、貧血、白血球増加症、上部および下部消化管の内視鏡検査で、組織病理学的分析により、十二指腸、回腸、および結腸の粘膜におけるリンパ形質細胞性腸炎およびリンパ管拡張症が明らかになった。 クローナリティ検査は正常であった。
治療:メトロニダゾールとエンロフロキサシンに反応せず、低アレルギーフードの給餌にも反応しなかった。プレドニゾロン2mg/kg q24h 7days投与したが無反応であった。37病日からブデソニドとクロラムブシルを投与したが反応しなかった。
診断:無反応性腸疾患
経過:数回輸血を実施し、81病日に糞便細菌叢移植を行った
ドナー犬:ビーグル メス 5歳 11.3kg
CBC、血液生化学検査、レントゲン検査、エコー検査、糞便検査、IDEXX下痢パネル検査の全てが正常であった
糞便細菌叢移植の実際
24時間絶食し、無麻酔下で結腸内視鏡を行い生食で洗腸した後に移植した。ドナーから採取された新鮮便100gを100mlの生食で溶解し、滅菌ガーゼで2回濾して懸濁液を作成し内視鏡のチャンネルから移植した。15分間犬を横臥位に保定した。
結果と考察
移植4日後に一般状態が改善し、6日後には嘔吐が消失し、軟便になり、17日後には正常便になった。
95日後には漸減していたクロラムブシルも中止し、207日後にも再発もなく副作用もなく過ごしている。
移植後に症例のBacteroides属が減少し、Fusobacterium属が増加し、ドナー犬と同様の腸内細菌叢に変化した。
単回の移植で成功するには、腸内細菌叢が小腸よりも盲腸と結腸に豊富に存在することを鑑み、生理食塩水で徹底的に盲腸と結腸に洗浄した後に、内視鏡下で移植を行うことが重要と考えられた。
本論文でも移植前後の糞便のゲノム解析を実施しており、細菌叢の変化を明らかにしています。また、他の論文と同様に副作用はなかったと報告しており、免疫抑制剤を長期にお強するよりはメリットが大きいと考えられます。洗腸と内視鏡での移植、移植便の量などが微妙に異なりますが、1回の移植で成功しているので参考にしたいと思います。
みや動物病院