Combination chemotherapy with continuous L-asparaginase, lomustine, and prednisone for relapsed canine lymphoma

C F Saba et al, Vet Intern Med. 2009 Sep-Oct;23(5):1058-63.

犬リンパ腫 の標準的で反応率と寛解期間に優れた治療プロトコルは、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾンを用いたコンビネーションである。しかし、薬剤耐性を獲得し、治療が無効となったときには、さまざまなレスキュープロトコルが報告されている。 薬剤耐性の一般的なメカニズムは、薬剤排出ポンプをコードする MDR1 遺伝子が発現し、細胞からビンカアルカロイドやアントラサイクリンを汲み出すことである。一方で、CHOPベースのプロトコルでも代表されるアルキル化剤は、この薬物排出ポンプの影響を受けず、このクラスの薬物に見られる交差耐性は少ないと考えられている。 したがって、レスキュープロトコルには、通常はアルキル化剤が選択され、以前に使用されていない機序の薬剤、またはその両方を含むように設計される。

アルキル化剤によるレスキュープロトコルの報告は多く、1999 年に Moore らは、ロムスチンを単剤として使用し、完全〜部分寛解が、中央値86日間で25.6%(11/43頭)であった。 2002 年に Rassnick らは、メクロレタミン、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾンを用いた化学療法の完全〜部分寛解が 65% で、完全寛解(CR)の再燃までの中央値は63日であったのに対し、部分寛解(PR)の再燃までの中央値は47日であった。 2008年、Floryらは、ロムスチンとダカラバジンの組み合わせでは完全〜部分寛解率は35%で、CRの再燃までの中央値は83日であったのに対し、PRの再燃までの中央値は25日であった。 我々は以前、ロムスチン、L-アスパラギナーゼ、およびプレドニゾンの組み合わせによるレスキュープロトコルでは、31 頭の犬における完全〜部分寛解は 87% で、再燃までの中央値は 63 日であった。レスキュープロトコルの寛解期間は、CHOP ベースをはるかに下回っており、効果的なレスキュープロトコルの開発が望まれる。

最初の研究よりも化学療法の用量強度を高めるプロトコールを検討した。L-アスパラギナーゼは、その独特の作用機序で腫瘍性リンパ球のみに効果があるため、骨髄抑制や胃腸毒性などの副作用がない。そこで、ロムスチンではなく、L-アスパラギナーゼの用量を増加させることにより、毒性は増加することなく、有効性または寛解期間の向上が期待された。L-アスパラギナーゼの反復投与で懸念される過敏症は本研究では起こらず、問題なく実施できた。

材料と方法

CHOPベースの化学療法プロトコルに反応しなかった、または再発したイヌを組み入れた。 一部の患者はCHOPベースの化学療法プロトコルを1回以上繰り返していた。

ロムスチンは体重15kg以上の症例では、開始用量70mg/m2 PO、 体重15kg未満では60mg/m2 POとした。 3週間ごとに合計5回、または効果がなくなり、腫瘍が増大するまで投与した。ロムスチン投与後 1 週間で好中球数が 500 /μL 未満、またはグレード III または IV の肝障害が認められた場合は 10 mg/m2 減量した。 ロムスチンは 10、40、および 100 mg の錠剤なので、分割などはせずに用量は切り捨てて決定した。

L-アスパラギナーゼ投与の 15 分以上前に 2 mg/kg ジフェンヒドラミン IM が投与され、 L-アスパラギナーゼは400 U/kg で、ロムスチンと同時に SC または IMで投与した。  投与後30 分間以上、アレルギー反応を 監視し、1回でもアレルギー反応を起こした症例では最後まで中止した。

プレドニゾンは 2 mg/kg PO q24hで開始し、1 mg/kg PO q48h まで漸減した。 CRでプロトコールを終了し、60日以上寛解を維持した症例は、再燃時に同じプロトコールで再導入した。

42/48頭のステージングは再導入時に実施され、CBC、血清生化学、尿検査、リンパ節の細胞診、胸部X線検査、場合によっては骨髄検査まで行った。モニタリングは治療サイクルの7日後と21日後に身体検査とCBCと肝機能検査を実施した。

治療反応の評価
21 日毎に身体検査とリンパ節の測定を行い治療反応を評価した。CR:測定可能なすべての病変が完全に消失。 PR:測定可能な病変の体積の 50% 以上減少 SD:測定可能な病変の体積の50% 以下の減少 PD:測定可能な病変の体積の25%以上の増加 とした。総合反応率 (ORR)は CR と PR の合計とし、再発までの期間(TTP) は、最初の治療から主治医によって再燃が認められるまでの時間とした。

平均年齢8.5歳(2~15歳) 平均体重24.9kg(4.7~58.0kg) 雄27頭 雌21頭 ステージ IIa(2頭) ステージIIIa(9頭) ステージIIIb(3頭) ステージIVa(17頭) ステージIVb(1頭) ステージVa(7頭) ステージVb(3頭) 不明(6頭) B細胞性(13頭) T細胞性(7頭) nonB nonT(1頭) 不明(27頭)

29/48頭がUW、19/48頭がCSUプロトコールを受けていた。
本研究のプロトコールの ORR は 77% で、CRが31頭(65%)、PRが6頭(12%)、SDが2頭(4%)で、PDが 9 頭 (19%) であった。反応までの時間の中央値は 21 日であった。
8/48頭は初期プロトコールでL-アスパラギナーゼを単回投与されており、40/48頭はL-アスパラギナーゼは未使用だった。 L-アスパラギナーゼの投与もしくは非投与群間で、総合反応率と再発までの期間に有意差はなかった。12/48頭は組み入れ時には、中央値110日(範囲、21~455日)の間は化学療法を受けていなかった。36/48頭の犬は再発時にまだ化学療法を受けており、耐性が獲得されていた。この群間でも再発までの期間は60 日対 83.5 日で有意差はなかった。
ロムスチン投与回数の中央値は 3 回 (範囲、1 ~ 10) で、初回のロムスチン投与量の中央値は 66mg/m2 (範囲、46.9~76mg/m2) であった。 投与量の差によるTTP や CR 率に差はなかった。L-アスパラギナーゼ投与回数の中央値は 3 回 (範囲、1 ~ 6) であった。

45/48頭が死亡し、2頭がCRで生存し、1頭がCRであったが慢性腎不全で死亡した。 全体の TTP 中央値は 70 日 (範囲、2 ~ 4940 日) で、CRに達した群のTTP中央値(90日、範囲、24~4940日)は、CRに達しなかった群のTTP中央値(54日、範囲、2~130日、P5.003)よりも有意に長かった。 10頭が嘔吐し、5頭が下痢を発症した。5頭に急性の嘔吐、顔の腫れ、蕁麻疹などのアレルギー反応を発症し、発症例はL-アスパラギナーゼ投与を中止した。
好中球数は投与後 7 日で評価し、 6/48 頭は好中球減少症のためロムスチンの用量を10mg/m2、 2 /48頭は20mg/m2減量した。ロムスチン投与毎に血小板数を評価し、平均血小板数の有意な減少が投与回数とともに認められたが、グレード III または IV の血小板減少症は認められず、 すべて可逆的であったため、血小板減少による用量調整の必要はなかった。ALTは 45/48 で測定でき、39/45では ALT が基準範囲内で、6/45では増加した。 3頭でグレードIIIまたはIVの肝毒性のためロムスチンの用量を減らした。

併用化学療法は、①単剤として有効である。②異なる作用機序を持つ薬剤を使用する。③耐性メカニズムを共有しない。④重複する毒性を引き起こさない。⑤各薬剤は最大耐用量 (MTD) またはそれに近い量で使用する。⑥レスキュー療法の主な目標は治癒することは非常にまれなので症状の緩和である。などの条件を満たすことが必要である。

ロムスチン、L-アスパラギナーゼ、およびプレドニゾン はすべてリンパ腫に有効で、ロムスチンは強い骨髄抑制を起こす可能性があるが、L-アスパラギナーゼとプレドニゾンの骨髄に対する影響が最小限である。

本研究では消化管毒性はまれで、6.25%(2 頭)の犬が入院を必要とし、10% (5 頭)の犬が L-ASP に対する過敏反応を示した。血液毒性は中等度で、8頭の犬は好中球減少症のため用量の減量が必要であったにもかかわらず 、敗血症を発症した犬は 1 頭で、死亡例は 1 頭もいなかった。 時間の経過とともに血小板数が有意に減少したにもかかわらず、グレード III または IV の血小板減少症はなく、可逆的であった。 肝毒性は時間の経過とともに平均ALT活性が優位に増加する傾向があり、 3頭ではロムスチンの減量が必要で、2頭では中止が必要であった。

リンパ腫の再発例に対するレスキュー療法としては、反応率77%で非常に優れた結果と思われます。T細胞性にも利用できるプロトコールなので非常に有用と思われます。ロムスチンは国内未承認で、カプセルか錠剤しか存在せず分割できないので、日本の小型犬では用量の調整が困難です。本邦ではロムスチンの代わりにニムスチンという注射薬があり、用量調整もしやすくなっています。また、ロムスチンは非常に値段が上がり、10mg 1錠で65ドル以上します。個人輸入で送料と関税のことも考えますと、リスクをベネフィットが上回るとは考えにくいのが現状です。L-アスパラギナーゼ、プレドニゾンにニムスチンを加えたプロトコールを利用できるように、次はニムスチンに関する論文を探して行きます。

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