再膨張性肺水腫の猫の1例

○宮 豊、合田 麻衣

みや動物病院・阪神支部

はじめに:胸水に対し胸腔穿刺は日常的に行われる手技であるが、その合併症として気胸、出血などの技術的な問題の他に、発生率は低いものの、虚脱肺の伸展に伴い血管透過性が亢進することで再膨張性肺水腫を起こすことが知られている。人の医療においては0.2%~2.2%の発生率と言われており、肺の虚脱期間など危険因子について報告されているが、犬や猫では例数が少なく詳細は不明である。今回、肥大型心筋症によって胸水貯留した猫において、胸水抜去後に再膨張性肺水腫を起こした症例に遭遇したので、その経過について検討を行った。材料および方法:種類:アメリカンショートヘア、性別:去勢雄、年齢:16歳、体重:5.7kg、既往症:便秘、尿道閉塞、主訴:半年前から息が苦しそう 胸部レントゲン検査で胸水が貯留していた。フロセミドを皮下注射し、ICUにて酸素化した後に胸水を400ml抜去した。胸水は変性漏出液で、心臓超音波検査ではLA/Ao 2.11 IVSd 8.2mm LVPWd 7.7mmでスナップ・proBNPは強陽性であった。ピモベンダン1.25mg/cat フロセミド5mg/catを処方したが、帰宅後に呼吸状態が悪化し、第2病日に再度来院した。レントゲン検査では胸水は少量であったが、肺野の不透過性亢進像が認められ、再膨張性肺水腫と診断した。尚、T4 7.49μg/dlであったため、甲状腺機能亢進症による肥大型心筋症に起因する胸水貯留と診断した。成績:再膨張性肺水腫は第5病日には回復し、その後は鬱血性心不全と甲状腺機能亢進症の内科治療を継続したが、51病日に死亡した。結論:人の医療において再膨張性肺水腫は3~4日以上におよぶ肺の虚脱期間で発症しやすく、再膨張から2~24時間で発症し、死亡率は19~20%と言われている。確実な予防方法はなく、吸入圧を低く設定し、時間をかけて吸引することが推奨されている。一方、獣医療においては肺の虚脱期間が長いことが多いと考えられること、患者が治療に非協力的なため胸腔穿刺吸引に長時間をかけて行うことは困難なことなどから、胸水抜去後数時間は呼吸状態を観察するとともに、飼い主への説明が重要と考えられた。

抄録を掲載しました。正しい治療なのですが、縮んでいた肺が拡張すると一定の確率で発生するようです。だからと言って抜かないわけにもいかず、実施せざるを得ません。可能な限りゆっくりと胸水を抜き、処置後は酸素室で経過を注意深く観察し、必要であれば気管挿管して対応いたします。

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