Influence of medications on thyroid function in dogs: An update

犬の甲状腺機能に対する薬剤の影響アップデート

Timothy A. Bolton et al. J Vet Intern Med. 2023;1–15.

INTRODUCTION:甲状腺ホルモンの合成、分泌、分布、代謝を変化させる薬剤の影響で、甲状腺機能検査結果が変化することがある。 以前の報告は20年も前であり、すでに報告されている薬材についても再評価し、新たな薬材についても調査を加えた。 甲状腺機能低下症の誤診や不必要な治療を避けるために、これらの影響を認識することが必要である。

グルココルチコイド:ヒトでは、外因性および内因性グルココルチコイドが、TRH 分泌の抑制と、末梢の T4 から T3 への変換阻害の2 つのメカニズムを通じて甲状腺ホルモンの生理機能に影響を与える。犬に投与されたプレドニゾンは、30分以内にプレドニゾロンに変換され、その血中濃度は6倍高いことが証明された。正常な犬にプレドニゾンを1.0~1.1 mg/kg/dayで 3~5 週間投与すると、T3が低下し、T4および fT4濃度は変化せず、 2.2~4.0mg/kg/dayのプレドニゾンを3週間投与すると、T3、T4、fT4は減少したが、TSHは変化しなかった。健康な犬の皮膚にデキサメタゾンを3週間局所投与すると、T4とT3がそれぞれ50%と15%減少した。それらは薬剤中止後1 週間で 正常に戻る。

フェノバルビタール:健康な犬にフェノバルビタールを短期間(1 か月未満)投与しても、 T4、fT4、 TSH 濃度に変化はなく 、健康な犬とてんかんのある犬にフェノバルビタールを長期(1 か月以上)投与すると、15 ~ 75% の犬でT4 が低下し、TSHは変化しないか増加した。 29 週間のフェノバルビタール治療後に 血T4 および fT4 が減少したのちに、TSH が増加した。つまり、フェノバルビタールを長期投与されている犬の中には、原発性甲状腺機能低下症を示す結果が出ることもあるので、 フェノバルビタールを投与されたている犬の甲状腺機能検査の解釈は困難である。フェノバルビタールの甲状腺ホルモンへの影響は薬剤中止後5週間で解消するため、甲状腺機能検査を行う前に少なくとも6週間は治療を中止することが推奨される。

臭化物:ラットでは、臭化物によりT4 が用量依存的に減少することが知られているが、健康な犬とてんかんの犬に、6ヶ月間投与してもT4、T3、fT4、およびTSH濃度に影響がないことが明らかとなった。

ゾニサミド:ゾニサミドを8週間投与した健康な犬ではT4濃度に変化がなく、 fT4 濃度の有意でない減少と、同時に血清 TSH 濃度の有意でない増加が認められた。この反応は原発性甲状腺機能低下症の変化と類似しているため、ゾニサミドの影響については追加検証が必要である。

イメピトイン:18週間投与した健康な犬では、血清T4、T3、fT4、TSH濃度に変化は認められず、甲状腺機能検査に影響を与えずなかった。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAID):前向き研究で、犬の甲状腺機能検査にアスピリンを投与した対照研究では、血清 T4 で60%、 T3 で13%の犬で基準範囲よりも低下したが、 TSH 濃度は変化しなかった。カルプロフェンを 2.2 ~ 3.3 mg/kg PO q12h 5wksで投与した研究では、血清 T4 、 TSH 濃度がそれぞれ 18% と 25% 減少した。 しかし、カルプロフェンを 1.7 ~ 2.3 mg/kg PO q12h 60days で投与した対照研究では、血清 T4 および TSH 濃度に変化は見られなかった。エトドラクを10.0~13.3 mg/kg PO q24h 2~3週間投与したところ、T4の低下とTSHの上昇が生じた。 エトドラクを 12.1 ~ 15.6 mg/kg PO q24h  28days投与したところ、T4 および TSHに対する影響は観察されなかった。 全ての研究で、血清 fT4 濃度の変化は確認されなかった。
ケトプロフェンとデラコキシブをそれぞれ 1 週間と 4 週間、メロキシカムを60 日間投与しても、 T4、fT4、T3、TSH 濃度に影響を与えなかった。
甲状腺機能検査に影響を与えることが知られているNSAID、特にアスピリンなどを投与している間に甲状腺の状態の評価が必要な場合は、少なくとも7~14日間の休薬が推奨される。 fT4 および TSHは、NSAID による影響が著しく少ない。

サルファ剤:スルホンアミドは、甲状腺ペルオキシダーゼを阻害することにより、甲状腺ホルモンの合成と分泌を抑制する。トリメトプリム スルファジアジンはの4 週間の投与は血清 T4、T3、または fT4 濃度に影響を与えなかったが、トリメトプリム・スルファメトキサゾールは血清TSH濃度(66%)の増加、血清T4(50%)とfT4(66%)濃度が低下した。スルホンアミド基の構造が、重要な要素の可能性がある。スルホンアミドを低用量(12時間毎に約15 mg/kg)で少なくとも3週間、高用量(12時間毎に約30 mg/kg)を少なくとも1週間投与された犬は、原発性甲状腺機能低下症を示す検査結果が得られる可能性が高い。いかなる用量でもスルホンアミドを投与されている犬の甲状腺機能の検査を避ける必要がある。また、甲状腺機能検査が必要な場合は、薬剤中止後少なくとも 4 週間後に実施する必要がある。

吸入麻酔:ヒトにおいて全身麻酔下での手術が血清 T3 濃度の低下と血清 rT3 濃度の増加を引き起こし、T4 から T3 への脱ヨウ素化が障害されている。 甲状腺ホルモンの変化はさまざまで、麻酔プロトコル、外科的処置、併発疾患などの影響であると考えられる。
犬のでも吸入麻酔薬は、2 時間と 4 時間で血清 T4 濃度の減少を誘発し、8 時間し、48 時間で回復した。 吸入麻酔薬は手術の有無にかかわらず、甲状腺機能検査の結果に影響を与えるため、麻酔または外科的処置後 14 日間は検査を実施すべきではない。

プロプラノロールは、ヒトにおいて用量依存的にT3を減少、 rT3を増加させるが、T4 および TSHは、ほとんど影響を受けない。甲状腺機能が正常な犬にプロプラノロールを 4 週間投与しても、T4、T3、rT3および TSH に影響はなかった。

三環系抗うつ薬:ヒトでは三環系抗うつ薬がTRH放出を直接的に抑制し、TSH放出も抑制することと、甲状腺内で三環系抗うつ薬がヨウ素と複合体を形成し、甲状腺ペルオキシダーゼが利用できなくなり、血清 T4、T3、および fT4 濃度が抑制され、医原性甲状腺機能低下症に至る可能性がある。
犬ではクロミプラミンを調査し、T4、fT4、rT3の血清濃度の低下が記録され、1か月の治療後に各ホルモンの持続的な減少が明らかとなった。クロミプラミン中止後いつ正確な甲状腺機能検査を実施できるかについては不明である。

チロシンキナーゼ阻害剤:ヒトではヨウ素摂取障害、甲状腺ペルオキシダーゼ阻害、甲状腺毛細血管退縮、脱ヨウ素酵素活性の誘導、破壊性甲状腺炎など、数多くの原発性甲状腺機能低下症の原因になる機序が特定されており、投与中には、甲状腺機能検査を定期的に実施することが推奨されている。
犬でもトセラニブ投与により、低fT4および高TSHの甲状腺機能低下症となることが明らかとなった。 人では発症までの平均期間は50週間であるが、犬では不明である。

トリロスタン:副腎皮質機能亢進症の犬を対象とした、6ヶ月間のトリロスタン治療後の測定では、T4に有意な変化はなく、基準範囲内ではあるものの、fT4の低下とTSHの増加が示された。

アミオダロン:アミオダロンは、構造的に T4 に似ており、37% のヨウ素を含むクラス III 抗不整脈薬で, ヒトにおけるアミオダロン投与による甲状腺機能への影響は、末梢組織におけるヨードチロニン脱ヨウ素酵素の阻害と、組織へのT4侵入の阻害よるとされ、T4 は増加し、 T3 は減少する。 アミオダロン投与により14% ~ 18% が甲状腺機能不全を発症する。
アミオダロンで4週間治療した健康な犬では、T3は変化せず、T4が上昇することが確認された。他の研究では、TSH誘発性のT4(正常の73%)およびT3(正常の68%)の分泌の阻害が確認された。 不整脈のイヌの後ろ向き研究では、中央値でそれぞれ84日と75日の治療後、血清T4濃度とTSH濃度に変化が見られなかった。 現段階では犬におけるアミオダロン誘発性甲状腺中毒症または甲状腺機能低下症の報告例ないが、アミオダロンを投与中には、実施推奨間隔は不明だが、甲状腺機能検査を定期的に行い、アミオダロン治療の開始前に甲状腺機能検査を行うことが推奨される。

犬の甲状腺機能検査結果を変化させる薬剤のリストは、過去20年間で増加した。 一般に、グルココルチコイド、フェノバルビタール、NSAID(アスピリンなど)、スルホンアミド、吸入麻酔薬、クロミプラミン、トセラニブ、アミオダルワン、トリロスタンを投与されている犬は、甲状腺機能検査の結果を慎重に解釈する必要がある。また、犬の甲状腺機能に影響を与える薬剤と、それぞれの薬物の中止期間に関する知識が必要である

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