モルヌピラビルで治療した猫伝染性腹膜炎の18例 論文要約
Molnupiravir treatment of 18 cats with feline infectious peritonitis: A case series
「モルヌピラビルで治療した猫伝染性腹膜炎の18例」
Okihiro Sase. J Vet Intern Med. 2023 Aug 8.
INTRODUCTION:猫コロナウイルス感染症は繁殖猫や保護猫の飼育場で蔓延しており、通常は無症状か軽症である。猫コロナウイルス感染症の中で最大14%の猫が異常な免疫反応の結果、猫伝染性腹膜炎になる。
猫伝染性腹膜炎は滲出性または非滲出性に分類され、致死率は高く、症状出現後は数週間から数か月以内に死亡していた。
モルヌピラビルは、経口投与に適したヌクレオシド系抗ウイルスプロドラッグで、重症急性呼吸器症候群コロナウイルスおよびコロナウイルス感染症に対して有効で、日本でも承認されている。猫におけるモルヌピラビルの有効性と安全性に関する報告はあるが、猫伝染性腹膜炎の猫に対するモルヌピラビルの使用については十分なデータが不足している。今回我々は、18頭の猫にモルヌピラビルを使用し、その結果を報告する。
MATERIALS AND METHODS
Cats:猫伝染性腹膜炎は、臨床症状(食欲減退、腹部リンパ節の腫れ、体重減少、発熱、浸出液、ぶどう膜炎)と、アルブミン/グロブリン比、貧血、高グロブリン血症、α1-酸性糖タンパクなどの検査結果を総合的に判断して診断する。 最終的に腹水、胸水、全血または化膿肉芽腫性病変の細針吸引などのサンプルのPCR検査をして確定診断した。
Drug preparation:モルヌピラビル 200mg カプセル 20 個内の粉末とセルロース粉末 を混合し、計 12 g の混合物を作製し、錠剤を200個作成した。
Treatment:滲出型には 20 mg/kg/day (10 mg/kg q12h)、非滲出型の猫には 30 mg/kg/day (15 mg/kg q12h) 化膿肉芽腫性病変、或いは神経学的または眼の兆候のある猫のある猫には 40 mg/kg/day (20 mg/kg q12h)を84日間投与した。
Measurements:自宅で体重、体温、身体活動、食欲、排便/排尿を毎日記録し、1、2、6、10週目に来院し、CBC、α1AG、TP、Alb、AST、ALT、T-Bil、Cre、BUN、 A/G比を測定した。その際、腹部と胸部の超音波評価も実施した。
RESULTS:18 頭の年齢の中央値は6.5か月では、すべての猫は血清A/G比が低く、16頭には食欲不振、14頭に軽度から重度の貧血、 13頭が滲出性で、5頭が非滲出性であった。てんかん発作/神経学的徴候、姿勢反射の鈍化、瞳孔反射の遅延 などの神経学的または眼の症状が 3 頭の猫に認められた。16頭は通院で治療され、2頭は黄疸のため3 日間、黄疸と ALTの増加、貧血のため5 日間の入院を必要とした。
Outcomes:14 頭は急速に回復し、重症度に関わらず 2 ~ 3 日以内に解熱し、食欲も回復した。寛解した症例において、治療中止後の55~107日間の追跡期間中に再発は認められなかった。治療開始から1週間以内に滲出型の3頭が死亡し、1頭が安楽死となった。
Safety:ALTの上昇が4頭で発生し、3頭は無治療で回復し、1頭は3 日間入院治療を受け、全頭で腎機能に異常は認められなかった。
DISCUSSION:モルヌピラビルにより18頭中14頭の猫が寛解し、最長107日間の追跡期間中寛解を維持した。薬用量について、神経学的/眼症状のない場合は4.5mg/kg PO q12hが推奨され、発症した猫には12mg/kg PO q12hが推奨されていたり、滲出性または非滲出性の場合は25 mg/kg PO q24h、眼球症状では37.5 mg/kg PO q24h、神経症状では 50 mg/kg PO q24hを推奨している論文もある。今回我々は、滲出性には10mg/kgPO q12h、非滲出性または化膿肉芽腫性病変を有する猫には15mg/kg PO q12h、神経性または眼疾患の猫には20mg/kg PO q12hと投与したが、効果的かつ安全であると考えられた。
4頭の死亡例について、全て滲出性であったが、生存例との比較において、早期死亡を予見するような兆候は見つからなかった。
非常に素晴らしい論文と思われます。FIPは不治の病でしたが、抗ウィルス薬の進歩でここまで治療できるようになり、助かる猫ちゃんも増えることと思います。当院でも、モルヌピラビルを常備するようにいたします。猫伝染性腹膜炎でお困りの飼い主様はお気軽にご相談下さい。