この糞便細菌叢移植の論文は、Case Reportという形態で1例報告となります。Koji Sugita等が2019年にBMC Veterinary Researchという雑誌に投稿・受理されたものです。
英語のタイトルは”Oral faecal microbiota transplantation for the treatment of Clostridium difficile-associated diarrhoea in a dog”というもので、直訳すると「経口糞便微生物叢移植を行なったクロストリジウム・ディフィシル感染性腸炎の犬の1例」となります。

背景:クロストリジウム ディフィシルは、重度の再発性下痢を引き起こし、人の医療において問題となっている。その再発性クロストリジウム ディフィシル感染性腸炎に対して、糞便微生物叢移植は良好な成績が報告されている。しかし、犬のクロストリジウム ディフィシル感染性腸炎に対する有効性は調査されておらず、応用したところ副作用なく長期的に維持できた症例を報告する。

症例:種類:フレンチ・ブルドッグ 年齢:8ヶ月齢、体重:11.0kg、性別:雄、4か月にわたる1 日あたり 7 回以上の粘液性〜血様下痢を呈していた.

本症例は経過が長く、本題のクロストリジウム ディフィシル感染性腸炎までの詳細は割愛します。

2度の糞便サンプルのリアルタイムPCR検査により、クロストリジウム・ディフィシルのA&Bトキシンの遺伝子が陽性であり、イムノクロマトグラフィー検査キットでも陽性が持続していることが確認された。そこで、飼い主の同意のもと、経口糞便微生物叢移植を実施した。

この治療は東京農工大学の研究倫理委員会によって承認された。

ドナーの選定:種類:ビーグル 年齢:9歳、体重:11.0kg、性別:雄、、体重11.0kg、環境:ケージ飼育、フード:サイエンス ダイエット アダルト、ヒルズコルゲート社、飲水:自由飲水、 検査:全血球検査、血清生化学分析、X線撮影、腹部超音波検査、糞便検査に異常は認められず、糞便サンプルのリアルタイムPCR分析では病原体は検出されなかった。

移植の実際:①糞便採取直後、約60gの糞便を50mLの水道水に溶解した。 ②糞便溶液を医療用ガーゼで2回濾過した。 合計 30 mL の糞便溶液を、注射器を使用して経口投与した。

結果:経口糞便微生物叢移植の 2 ~ 3 日後に便の硬さは正常になり、便の血液と粘液は消失し、便の頻度は 4 ~ 5 回/日まで減少した。  7 日後 の糞便のリアルタイム PCR 分析では、C. ディフィシル毒素 A&B 遺伝子は陰性であった。 61日目と149日目に実施したPCR検査でも依然として陰性であることが確認された。 イムノクロマトグラフィー検査によっても陰性が確認された。他に治療は一切必要なく、190日目でも便の状態は正常である。

犬における投与経路は確立していないのですが、本論文では経口的に移植を行なっており、非常に簡便で副作用もなかったと考察しています。

みや動物病院